Craftsman Interview #1

注染が好きだから、
注染でどこまでできるかがやりたいんです

あひろ屋 野口 由

仕事と学業と。十代から始まる職業遍歴

─────人生で最初に手ぬぐいを使った記憶や思い出はありますか?

小学校のとき剣道をやっていたので、手ぬぐいはなくてはならないアイテムでした。年があらたまった時に、新しい手ぬぐいが配られるのが嬉しかったですね。
あとは、母が手ぬぐいをよく使っていたんです。あの頃、どこで買っていたんでしょう(笑)。常に身近にはありましたけど、それで手ぬぐい屋をやろうとは考えたこともなかったです。

─────手ぬぐい屋さんの前に友禅のお仕事をされていたんですよね。

今日、ここに来る前にあひろ屋をどうして始めたのかということを考えていて、遡っていくといろんなきっかけがあって、話すと長くなるんですけど…友禅の仕事を始めたのは17歳の時です。

─────えっ、17歳?

中高一貫校に通っていたのですが、中学を卒業後自分で勉強しようと思って、高校に上がらずにやめちゃったんです。その頃、両親が離婚し、私と一番下の弟は母の方に、すぐ下の弟は父の方にと家族もバラバラになりました。母はそんなに働けないし、弟もいるから私が働きに出ないといけない。 でも中卒だとスーパーのレジ打ちでさえ断られちゃう。
そんなときに友禅の工房の求人広告を見つけて、珍しいので見学に行ってみようと軽い気持ちで行きました。
最初に「私、中卒なんですけど、いいですか?」と聞いたら「そんなの関係ない」と。
歳を聞かれて「17歳なんです」と答えたら「いいねぇーいいねぇー。若ければ若いほどいい。じゃ、明日から来てください」と言われて(笑)。

─────友禅の仕事に経験は必要なかったんですか?

あひろ屋
初日に描いた友禅。野口さん曰く「ボカシ染めがきごちないですね」

あひろ屋
一週間後のもの。これでOKがでて、翌日から四つ身(七五三用)を描くことに。
なかったです。というのも、半日その仕事をしただけで合わないと言って帰っちゃう人がいるんだそうです。 だいたい一週間くらいで仕事の合う合わないがわかるからまずは来てみてやってみなさい、と。
見学のときに、右利き左利き?と聞かれ、左利きだと答えると「いいねぇー。左利きは両手使えるからいいんだよ」と、道具一式を左利き用にセッティングしてもらって。
そんな感じで突如として、友禅の仕事が始まりました。
工房ではゴム糸目で型をつけてあるところに色を挿していくという作業をしていました。
学歴も関係なく働けて、毎日楽しかったんですけど、ハタと「私、勉強したかったんだよな」と思い出して、仕事の合間に受験勉強を始めました。県立の単位制の高校を受験したら受かったので、工房は続けられない。やめさせていただきますと言ったら、「これからという時なのに。高校を卒業したら帰っておいで」と言われ、この先どうなるかわからないまま「はい」って答えたんです…。後で知ったことですが、この一年後に工房は閉鎖したそうです。
で、高校に受かったはいいものの、やっぱりお金を稼がなくちゃいけない。でも学校へ行くのに片道2時間かかったので、バイトではとても身体が持たない。
そんな頃に、趣味で育てていたハーブを「自然食料品店に卸してみないか」と知り合いから言われたんです。その手があったのかと考えて、高校に入った年に19歳でハーブ屋を立ち上げました。そこから自営業生活です。

─────高校生が起業ですか?!

今から思うと不思議ですけど、取引先は高校生だということも承知のうえで、対等に話をしてくれました。そればかりか、何も知らない十代の私に帳簿の付け方や領収書の書き方などもみな周りの取引先の大人たちが教えてくれました。
ハーブ屋の仕事は店舗を持たずに電話とfaxで注文を受けて、苗を販売したり、ハーブを加工して入浴剤にしたり。 育ちすぎたハーブで五本指ソックスを染めてお店に卸したりもしました。それが今の植物染につながっていたのかもしれません。
高校の頃は行き帰りの電車の中で勉強して、商売もして、本当にめまぐるしかったです。
授業と授業の合間に取引先に電話して。当時は携帯がないから公衆電話に走っていくんです。
学校帰りに友達にボウリングに行こうと誘われると「ごめーん、私、合羽橋に仕入れに行かなきゃ」って(笑)。「由ちゃん、仕入れってなに?なに?」と友だちがついてきて荷物を持ってもらったこともありました。
ギリギリの生活をしていた時もあり、学校にハーブを持って行って先生や友だちに「私、定期切れちゃったから買ってください!」と押し売り(笑)。友だちのお母さんにまで買ってもらって。そんなふうに周りに助けられました。当時は必死だったんでしょうね。
ネットもない時代に口づて口づてで広がって、パートの人を雇ったこともありました。この仕事の経験がなければ今はなかったです。

注染について

主に手拭の染色に使われる伝統的な技法。
型紙を載せた綿布の上から防染糊を置き、布を折りたたむ。染めたい部分のまわりに糊で土手を作ってから、その土手の内側に染料を注いで布を染める技法。染料は布の下側に抜けるため、布の芯まで染まり、裏表なく染まるのが特徴。
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