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睦月 のっぺ
 年がかわって新しく、料理について書かせてもらえることになった。といってもお茶席だとか懐石だとか、外国からのお客様とか大そうなご馳走ではなくて、昔から卓袱台にのっていたもの、いまでもお母さんがあたりまえに拵えているような、お惣菜やおやつである。どこにでもある材料で、ちょっと手間をかければ誰にでもできる旨いものをご紹介していきたい。

台処歳時記
彩りには絹さやを
 一回目は、年明けでもあり、越後の正月料理、のっぺといこう。正月だけでなく、慶事や仏事、人寄せのときにどっさりこしらえてはふるまう地味ながら重宝な一品だ。新潟のみならず、東北から熊本まで、各地でもおなじみで、岡山では酒粕をつかうなど、地方ごとにいろんな味があるようだ。新潟でも土地によってのっぺい、のっぺ汁、大海、おおびらなどと呼び名も異なり、入れるものも様々らしいが、里芋を頭に、蓮根や牛蒡、大根や人参など、ちいさく切った野菜が主な薄味の炊き合せで、小鉢にひとり分ずつ供する。ふつうのお煮しめよりも具が細かく、また醤油を勝たせず色も味も淡く仕上げた汁には、里芋のぬめりが欠かせない。榎やナメコなど茸類をたっぷり加え、さらにぬめぬめの汁にする家もあり、ひとあじ違ったおいしさだ。

 まず出汁は、干しいたけと貝柱でとるのが越後風。東京ではあまり見かけぬ 貝柱は、帆立貝をカチカチに干したもので、2、3日気長に水に漬けておくと、あっさりと品のいい出汁が出る。家によっては鮭を入れるのも、日本海側ならではだろう。ちなみに新潟でも指折りの港町、村上で冬ごとにつくる塩引きという新巻鮭は、さいきん出回っている外国産の塩鮭とは別格のうまさを誇る。かつてはよく歳暮に贈られ、雪の積もった暮になると、50センチほどもある塩引きが家の軒から吊るされて、そいつを猫が狙ったりした。雑煮に氷頭(ひず)なますにと、余すところなく使われる。出汁がでるのはいうまでもなく、正月や結婚式には、ととまめ(いくら)も飾れば見た目もいっそう鮮やかになる。

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時間があればこれもたのしい銀杏の皮むき
 ほかにはこんにゃく、かまぼこ、筍の水煮やぎんなんなどをお好みで。ぎんなんの殻を割るのはちょっと手間だが、やはり市販の水煮よりうまい。金槌で一個すつ角を叩いて割り、茶色の薄皮はヒタヒタの水で塩茹でしながら玉杓子でごりごりこすると、きれいに青く剥けあがる。多めに剥いて冷凍すれば、茶碗蒸などに重宝だ。こんにゃくも、のっぺには白いのを選ぶ。あれば百合根なんかも入れたいところ。

 ちょうどほぐした百合根くらいに材料を切りそろえるが、用途によって切り方が変わる。慶事には大きめの短冊に切って鶏や鮭のハラス、ととまめを入れる。法事の際は、ちいさな短冊、葬式には三角に切って肉魚の代わりに油揚げをつかうのが一般だ。

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どっさり炊くのがうまさの秘訣
 脇役みたいな料理だが、いろんな野菜の滋味をたのしむ、なかなか乙な一品だ。里芋に鮭、大根、こんにゃく、蓮根、牛蒡にぎんなんと、順繰りに箸でつまんでは口に放り込んでいると止まらなくなり、たちまち一皿たいらげる。だからこういうものは大鍋でどっさり作るのが、味のうえでも理に適っているようだ。大根や里芋が煮崩れては台なしなので、堅いものから見計らって炊き上げるのさえ気をつければ、なんにも難しいことはない。煮すぎないよう、のっぺは温めなおさない家もあれば、わざわざつめたく冷まして供するという家もある。晦日の晩には大鍋に、決まってたっぷり煮えていた。白い飯より酒の肴にあうせいか、子どもの時分は華やかなお節に惹かれてあまり見向きもしなかったのに、大人になると懐かしく、冬になると食べたくなるご馳走だ。


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