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長月 いちじくの酢味噌かけ
台処歳時記
かたちを崩さずさっと蒸す
 朝がた鳴き出す蝉の声が、いつの間にか控えめになり、日暮れ前から草むらでジージーと沸き立っていた虫の音も、ツクツクと寂しくなった。肌にひりひり灼きつく日差しも、夜ごとつづいた続いた寝苦しさも、これでようやく峠を越して、そろそろ秋は訪れる。

 果物屋の店先は、これからが楽しい季節、みずみずしい桃、ぶどうや梨にちょっと遅れて、待ちかねた無花果が並びだすのはこの頃だ。傷みやすくて扱いがむずかしいのか、人気がそれほどないせいか、関東ではぶどうや梨ほど景気よくは出まわらないので、赤紫の皮がつやつやとして、ざくろみたいなお尻から、きれいな粒がのぞいていると、つい買わずにはいられない。

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皮の張りツヤが鮮度の目安
 もっとも昔はよく勝手口の脇なんかに植えられていて、青くて硬い実がぷっくら太って紫色に熟したら、もいで食べるものだった。花をつけずに実がなるように見えるので無花果というけれど、実際はこの実の部分が花に当たる変わり者。カリウムやカルシウム、鉄分まで含まれて、江戸時代には薬用として栽培されていたという。愛知の西三河地方を筆頭に、各地でつくられている8割方がさっぱりとした西洋いちじくといわれる品種。ちょっと小ぶりの日本いちじくは、滅多にお目にかかれぬが、味わいが濃く、甘みもつよい。

 半日も放っておくと、皮の艶もすぐにくすんでしまうので、まずはもぎたてをぶつぶつ生でかじりたい。また火を通すと濃厚な甘い香りが立ちのぼり、違った風味が楽しめる。ジャムはもちろん、赤ワインやさとうを加えてことこと煮れば、日持ちもするし、うす紅い色もひときわ冴えて、冷やして食べるとさらにおいしい。さとうと水だけでやわらかく煮たいちじく湯もなつかしい。

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箸休めや前菜に
 きれいな色あい、愛嬌のある形と独特の食感ゆえか、果物ながら日本料理にも使われる。天ぷらやあんかけもよし、簡単なのは酢味噌かけ。温める程度に蒸すか電子レンジにかけて、荒熱をとったら酢味噌を添えるだけ。いちじくの酸味が味噌と意外によく似合う。火を通しすぎると水気が出てくったりするし、色もくすんでしまうので、温めすぎは禁物だ。いちじくの淡い甘味を消さぬよう、酢味噌は辛さをほどほどに。白味噌に酒、さとうと卵をよく擂って、弱火で練った卵味噌ならなお旨い。  月のきれいな秋の宵、こんな甘酸っぱい前菜も、目先が変わってわるくない。






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