和雑貨 翠 TOP > 台処歳時記 目次 > 弥生
ぼたもち
台処歳時記
煎茶よりも番茶がにあう
 まる裸だった裏の枯れ木が今年もやっと芽を出して、朝早くからいろんな鳥がかわるがわる訪れる。その芽はみんなの好物らしく、なにやらさかんに啼き交わしては、せっせとせわしくついばんでいる。さんざん食い散らされながら、葉っぱもちゃんと緑を増して、草木も鳥も虫たちも、いっせいに動き出す。

 開花の予想がちょっと延びたり、真冬の寒さが戻ったりでも、春の日差しはたしかに温み、花のかおりに気もゆるむ。出歩いては風邪などひいて、うかうかするともう彼岸。ご先祖様よりぼた餅に心傾く不信心は、毎年かならずつくってもらった育ちゆえに違いない。

 季節の花になぞらえて、春の彼岸にお供えするのが牡丹餅で、秋はお萩と呼び替えるのがほんとだけれど、うちでは年じゅう「おはぎ」であった。
 名まえはどうあれ、小豆は決まって大きな鍋でつやつやと炊き上がり、拳ほどに握られたいつものおはぎは漆の蓋物にぽってりと納まって、ご近所に配った後も、二、三日は食べられた。食べでがあるので、できたてをお吸物やお浸しなんかとお昼に食べて、おやつに晩のごはんの後に、だんだんと硬くなるのをひとつずつ平らげる。

台処歳時記
あんこの厚さは甘みで決める
 お菓子屋さんで売っている上品なのにどうも食指が動かないのは、お箸で食べるごろんとしたのに長年なじんだせいだろう。
 土地により家によって作りようも様々で、じっくり餡を炊き上げて、重箱いっぱいにひとつでっかくこしらえるお婆さんも健在だ。乳の出がよくなると、産後の膳にものせられた。

 小豆200gはいちど茹でこぼし、豆が指でつぶれるほどに炊きあがったら、茹で汁をひたひたより少なめにして、砂糖120gを分けて加え、木べらで鍋底に「の」の字が書けるほどに練り上げる(冷めると一段かたくなるので加減する)。もち米2合は研いだら1時間以上同量の水に浸してから炊き上げて、すりこぎなどで軽く突く。手水をつけて好みの大きさに丸め、冷めた餡を適量ずつ掌に広げて包む。もち米と餡の配分が肝心なので、ひとつ食べてみて餡を量るといいだろう。甘みも厚みもお好みだが、甘みを控えてたっぷりくるむと手づくりらしい味になる。この分量では砂糖がやや抑え目なので、小豆と同じくらいまで増やせばいっそう艶よくあがる。

台処歳時記
餡をくるんでついでにきなこや擦りゴマも
 突きたての餅と同様、ぼたもちも温いうちがいちばんだ。握るまえに、熱いごはんの焦げたところを取り分けて、あんこをちょっとまぶしたのなんか尚うまい。翌日かたくなったのをアルミ箔にくるんでストーブにのっけたやつも捨てがたかったが、今ならチンでOKだ。

 暑ささむさも彼岸まで、とりわけ春はようやく寒さもひと段落で、待ちかねた陽気にほころぶ花の香に小豆ともち米のいいにおいが混じり合う。ふしぎに曇ったうすら寒い日は小豆を煮る気も起きなくて、私にとっては体ぜんぶで春を味わう特別な食べものだ。

 


このコラムのご感想やご意見など にお寄せいただければ幸いです。