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木の芽田楽
台処歳時記
枝はすりこぎ、雌木になる実は粉山椒、いろいろ使える山椒の木
 花といえばすなわち桜、木の芽といえば山椒の芽。
 紫蘇に長葱、あさつきミョウガ、日本のハーブは数あれど、この山椒の苦甘いようなつよい香りにかなうものはないだろう。さむいうちは枯れ木のように丸坊主でも、冬が過ぎるとかならず律儀にあとから後から芽を出して、しばらくお膳に彩りと春の香りをぞんぶんに恵んでくれる。時期になると山椒の鉢が八百屋にも並ぶところをみると、春野菜ともいえるのか。世話いらずで毎年どんどん育つから、ひと鉢あると重宝だ。香りのせいかアゲハチョウなどの好物なので、毛虫に食い尽くされぬよう、見張っているだけでいい。

 そろそろうれしい冷奴にとんとん叩いて青々と。鰆の味噌漬など焼き魚もちょんとのせれば春仕立て。筍との相性のよさは言うに及ばず、木の芽あえなら山海の幸いろいろに楽しめる。そして一度は食べたいものが、昔ながらの田楽だ。

台処歳時記
味も姿もまことに素朴
 その名の由来は平安時代、田植えのあとに田んぼで舞った田楽踊りなる芸能らしい。串に刺した豆腐の姿が、竹馬みたいな棒にまたがりぴょンぴょン跳ねる、高足という踊りに似ていたゆえという。

 とくに中部地方では、春に欠かせぬごちそうで、お屋敷でも季節になると下働きのひとたち皆に気前よくふるまったとか。山椒が芽吹けば、あとは豆腐に味噌さえあればできるので、ひろく親しまれたのだろう。
 このあたりでは、串は5本くらいずつ末広に打ち、束ねた藁で味噌を刷きつつ、焼き鳥屋にあるような細長い「でんがくこんろ」の炭火でじっくり焼きあげた。串の打ちようひとつにも、関西は二股で、江戸は一本ずつだとか、土地柄があっておもしろい。踊りのほうの田楽は室町時代に廃れたが、それに代わって串焼きは、豆腐に限らず蒟蒻や芋、茄子から生麩、川魚まで、全国各地で色どり豊かに現在まで伝わっている。

台処歳時記
擂れば香りがたちのぼる。ちょっぴりならば叩いても
台処歳時記
焦げやすいので、気をつけて
 京都の白味噌200gに酒を半カップ、味をみて砂糖を加え、小鍋でしばらく練り上げる。木の芽は大きくひとつかみ、すり鉢で擂って荒熱のとれた味噌にまぜれば、木の芽味噌のできあがり。この分量で何回かたのしめる。
 水切りをした木綿豆腐を好みの厚さに切り分けて、味噌を塗って焼くばかり。豆腐はぜひよいものを。炭火ならぜひ串を打って本格的にいきたいが、魚焼のグリルでも。オーブントースターは水気がうまく飛ばぬので、あんまり具合がよくないようだ。甘い味噌は焦げやすいから、さっと焼いてすぐ食べる。ごはんよりは酒に合う。

 そのむかし、吉原あたりで人気のあった田楽茶屋は、デートによくつかわれたとか。乙な逢瀬にぴったりな、甘くて苦い春の味。

 


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