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昭和のくらし博物館
 いつにない早咲きで、花見の予定を全国で繰り上げている今年の桜前線。 春闘も控えめ、失業率は高くとも、なぜか浮き立つ花景色。
日本でいちばん愛され騒がれるこの桜、さかんに植えられたのは江戸時代というのだから、花見の歴史もずいぶんと古いもの。 長屋の花見ではないが、もっとも手軽に大勢で楽しめる季節行事のひとつといえましょう。

 身近な娯楽といえば、下町あるきや骨董市も人気の昨今。 ふるい町並や建物保存の声も高まり、道具が見直されるのも、壊しては作り、捨てては買い換えた高度成長&バブルが振り返る時期がきたということか。 由緒ある建物めぐりもよい時節だが、今日の目当ては生活道具、筋金入りの昭和住宅にお邪魔した。

 東京都大田区久が原。東急池上線の短い車両の音がひびくひっそり静かな昼下がり。
山の手に近いこの沿線、マンション並ぶ町も増えたが、南久が原の主流は2階建て。 道路もひろくて見晴らしがいい。竹垣や生垣が囲む庭にはどこも立派な花木が育ち、 見事な桜が咲き競う。門口には凝った鉄柵。
小学校前の洋品店それぞれに「体操着、上履き」と張り紙があるのもなにか新鮮だ。商店街には小さな八百屋や肉屋、喫茶店やうなぎ屋がぽつぽつ並び、 いずれも控えめだが個性ある佇まい。和菓子屋のちいさなガラスケースの上には手焼きせんべいのガラス壷がふたつ。

「昭和のくらし博物館」は、そんな住宅街の路地を入った奥にある。 博物館といっても、昭和26年築の民家をそのまま残した住宅だ。落ち着いた家並みのなかでも、黒ずんだ木造2階建てはちょっと目を惹く。
館長の小泉和子氏は日本の家具、生活史の研究で知られる工学博士。専門書から「昭和台所なつかし図鑑」といった一般向けのたのしい著作も多い。 父君みずから設計した公庫住宅の住み手がなくなったのを機に、戦後庶民のくらしの資料として保存公開される運びとなった。 当時のままの生活が、学芸員による四季おりおりの展示で再現されている。

 引き戸をあけるとチリンチリンと呼び鈴が鳴り、玄関わきの応接間を兼ねた書斎では洋家具が目にはいる。トントンと階段をあがると四畳半の子供部屋。 2面の窓から庭木が見えて気持ちがいい。文机の脇には火鉢。ガラス戸棚には手づくりの人形やそのベッド、机の引き出しにいっぱいのグリコのおまけ。 昭和8年に売り出された整理戸棚の扉の裏には、小学校の時間割が残っている。木綿と絹の風呂敷も、手拭いと併せてきれいに収められ、一家にこれだけ備えたものかと感心。 各間ごとに戸棚をそっと開けて、懐かしい道具をのぞくのが楽しい。

 隣の下宿人用の部屋はテーマを絞った企画展示室。「ちゃぶ台の昭和」展(9/1まで)では子供の飯茶碗がずらりと並ぶ。刺身用ガラスすだれが美しい。

 一階には茶の間と台所、座敷と談話室がある。 一畳半の台所には、かまどや氷冷蔵庫、米櫃など、かつての必需品が並ぶ。床は上げ板で甕や瓶が収納できる。 つづく茶の間には家族の食器がつつましく並んだちゃぶ台と火鉢。茶箪笥の上には大きな真空管のラジオが立派に鳴っている。 お櫃をくるむ蒲団も実物を見るのははじめてだ。

 座敷には和裁の道具。裁ち板のうえに置かれた袖型の図柄がゆかしい。電気アイロンや鏝が数台。 ここでは季節ごとの着物が展示され、三月いっぱいは「子供のきもの」。十着あまりだが、いずれも目に鮮やかな色柄、子供を大事に育てた時代の貴重な品だ。

 家族六人と下宿人が暮らしたとは思えぬこぢんまりした家ながら、家具を置くスペースをとった板敷きや、木材を節約するための斜め天井、 天井板の継ぎ目の竹など、使い勝手と美観へのこまかい配慮と工夫が見られ「狭いながらも楽しい我が家」が実感できる。

 入館者は基本的に係が案内する。その合間に、廊下の足踏みミシンで売り物の糠袋を縫ったり、余り布ではたきを拵えたりと、係員は忙しい。
しかし軒には唐芥子や玉ねぎがぶらさがり、談話室でお茶をいただきながら資料や縁側からの景色を眺めていると、入館者はしばし昭和に思いを馳せ、慌しい生活を顧る・・かどうかは自由だが、ゆったりと寛いだ気分は誰もが味わえるだろう。

 企画展示のほかに、春秋に行う生活史の教養講座や、建築や古文書など、多様な分野の講師を招いての土曜夜講座、地元の達人による浴衣製作や編物、大掃除といった「家事の伝承講座」など活動もユニーク。 見学会や催しも盛んで、展示品の寄贈、企画の持込など、入館者もそれぞれの才覚で参加できる和気藹々の博物館だ。
見学には、こみあげる懐かしさを共有できる同世代のお連れ同伴をお薦めしたい。

 近所には、庚申塚や、枝垂れ桜の庭も見事な増明院というお寺、物干し台のある下丸子の駅など寄り道先も豊富。 夕暮れの商店街は、ぼんぼりのような街燈があかく灯り、これまた風情ある眺めであった。


*博物館内の写真撮影はできませんでした。これは「実際に足を運んで見に来てほしい」という博物館の意図によるものです。
◆住宅街の中にある博物館。旗がないと気付かずに通りすぎてしまいそう。


◆昭和26年に 当時の住宅金融公庫融資限度枠ギリギリの規模・予算で建てられた初期公庫住宅をそのまま博物館として利用。


◆『昭和のくらし博物館』小泉和子著
 (河出書房新社)の帯より。

 「大人も子供も必死になって働いた
 貧しくも、しあわせだった昭和の日々。
 記憶のなかの懐かしいモノ。
 いま、よみがえる
 昭和の家族の情景。」



◆枝垂れ桜の庭が見事な増明院

アクセス東急多摩川線下丸子または池上線久が原下車 徒歩8分
東京都大田区南久が原2-26-19  電話・FAX 03-3750-1808
開館日◆毎週火曜日〜日曜日10:00〜17:00(夏期(9月)、年末年始は休み)
入館料◆大人500円 高校生以下300円
http://www.digitalium.co.jp/showa/


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