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和雑貨 翠 TOP
> 和から始まる小さな旅 目次 > Vol.9
新潟県の海岸線、下から3分の1に位置する柏崎から、20キロほど内陸へ入ると高柳。正しくは新潟県刈羽郡高柳町。黒姫山を北にのぞみ、雪晒しの上布で名高い小千谷や十日町にちかい豪雪地帯だ。ガイドブックにも載らない農村だが、山を背にして広がる棚田ときれいに残る茅葺屋根の集落が近年ひとを呼んでいる。
柏崎から、ゆるくうねる鯖石川に沿ってのびる252号線。川幅はせまいが、両岸を緑ふかく覆われたうつくしい流れがつづく。乗客のいないバスがゆっくりと走る。
田んぼを見晴らしながら、すこしずつ山へ向かっていくと、高柳の集落がはじまる。屋根の勾配が急なのは雪国の証拠。車庫の形も独特だ。山間部でよく見るカマボコ型の小屋が、家の隣にひとつふたつとかわいらしく並ぶ。5つも6つも連なると、基地のように勇ましい。地域ごとに色の好みがあるようだが、高柳ではグレーや臙脂といったいに地味、集落のはずれにカラフルな緑や青のがあり、黒っぽい木造家屋によく映えていた。冬にはもっと目立つだろう。
役場や商店の集まる中心部はすぐに終わって、さらに進むと山が迫り、あちこちに棚田が見えてくる。傾斜に沿って、自在な形に区切られ生えそろった青い稲穂が段々に連なるさまは、自然と人力の見事な造形だ。見わたすかぎり広がる平野の田んぼとは一味ちがった個性がある。思わず歩いてみたくなる。夏の昼下がりには作業するひともなく、虫の音だけが涼しくすだく。道路をすこし逸れると「かやぶきの里」と呼ばれる萩ノ島の集落。集会所を中心に、十数件の茅葺の家が田んぼをはさんで点在している。声ひとつ聞こえず、見事につくられた映画のセットのようだが、蓮や向日葵の咲き茂る庭と障子の白さから、住むひとの気配が伝わる。ちいさな神社の屋根もとんがっている。バス停の時刻表をみると、どうやら日に一本通るらしい。それにしても田んぼと茅葺のよく似合うこと。稲を干すハセ木沿いに、細い道がくねる。
さらに西へすすむと旅館や商店の縦書き看板がならぶ門出の集落。茅葺ではないが、木造の立派な農家がゆったりと構える。おなじ新潟でも、黒々した瓦の切妻屋根が連なる海岸沿いの漁村とはまったく違った光景だ。一軒宿の天王山温泉もある。この地域では、冬の副業として、雪を利用した和紙づくりが伝わるが、現在つづけているのは小林康生さん宅一軒になった。
作業場に入ると、蒸した笹のような甘いかおりが鼻をつく。大鍋で煮ている楮は、原木が採れる11月には、もっと強くにおうという。奥には2人の男性が水槽に向かっている。楮の外皮からできる竹色の大判紙をつぎつぎに漉きあげるひと、内側の白い繊維を長い棒でかきまわすひと、黙々と手際よい。近所から通っているという女性たちは、葉書や名刺大の濡れた紙をやはり黙々と張りつけている。みな立ち仕事だ。門出和紙は、新潟は三島郡越路町の銘酒、久保田のラベルに使われて全国へ出回っているが、手漉き和紙は量産ができないので、紙そのものを販路に乗せるのは難しいとのこと。様々な用途にあわせ、厚さや色、風合いの異なる20種ほどが少しずつ並んでいる。どれが何に用いられるのか、墨はむろん、障子や襖さえ縁遠い身には見当もつかない。「この頃は紙の使い方を知る人も少なくなって」と小林さんは仰るが、画家や版画家など、使い手の注文に応じて1年がかりでつくるものもある。楮をはじめ、染料も、ヤマモモを除きすべて近隣で採れる植物をつかっているので、農作業といろいろな行程をいそがしく両立させているご様子であった。
便箋、封筒など小さな製品はどれも美しいが、部屋には父上のつくられた丈夫な手提げや座布団、何度も水をくぐって柔らかな作務衣、絹のような手触りのテーブルセンターなど、和紙の可能性をひろげる新しい試みも随所にうかがえる。乾燥させた楮の内木を用いた灯りも、和紙職人ならではのアイデアだろう。作業場にちかい2軒の茅葺施設では、紙漉きやそば打ちの体験もできる。鯖石川を渡ると石仏のならぶ林道もあり、夜にはホタルが舞う姿も見られる。
豊かな環境を利用して、鯖石川と武納川にはさまれた広い敷地につくられた「こども自然王国」では、たくさんの自然体験プログラムが用意されている。隣接する「じょんのび村」には、桧の風呂をはじめ、食事や休憩もできる新しい宿泊施設や自炊用ファームハウスが建てられた。地元の朝採り野菜がならぶ青空市場、人気の豆腐、県内の物産を扱う店もあり、スキー場もちかいので、家族連れで農村の自然や生活文化を楽しむにはぴったりだ。鯖石川をさかのぼってダムに到るまで緑はさらに深まり、ニジマスや野鳥を求めて訪れる人もある。8月の終わり、吊橋をわたる夕方の風はすでに涼しく、ブナ林の濃い緑にまだ青い稲が目に染みた。
東の岡野町には、貞観園という京風庭園があることを知ったのは戻った後だった。国の名勝に指定されている。寛永年間から大庄屋をつとめる村井家が、江戸中期に農閑期の人手をもとにつくったもので、池を中心に2条の滝と各地の名石、樹木をあしらい、古風な茶室が点在するという。書院には木造薬師如来像など文化財も多い。ここを訪ねるのを口実に、今度は晩秋や冬のさなかの高柳を見てみたい。囲炉裏で焼いた川魚が楽しみだ。茅葺の宿で目を覚ますのは、さぞかし気持ちがいいだろう。
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| ◆雪国ならではのカマボコ形車庫 |
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| ◆小さな棚田が連なる |
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| ◆「かやぶきの里」萩ノ島の集落 |
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| ◆虫の声だけが聞こえる、夏の昼下がり |
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| ◆一枚ずつ漉かれる門出和紙 |
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| ◆門出和紙スタンド |
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| ◆武納川にかかる吊り橋 |
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 | (東京より電車で)上越新幹線2時間 長岡より信越線25分 柏崎より路線バス55分
(東京より車で) 関越自動車道2時間 六日町よりR253 30分 十日町よりR252 30分
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 | 新潟県刈羽郡高柳町 |
 | 高柳町観光協会 TEL0257-41-2233 門出和紙 小林さん方 TEL0257-41-2361
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