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和雑貨 翠 TOP
> 和から始まる小さな旅 目次
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みずから足を運んでみないと、わからないことはたくさんある。
東京の郊外、ICUこと国際基督教大学にある、湯浅八郎記念館というところで、ずいぶんと面白い企画展示が見られることを、つい最近になってはじめて知った。 美術館のちらしで目にすることはあったが、大学の施設ということや、名前に馴染みがないこと、入場無料ということなどが、なんとなく期待を削いでいたのだった。雑誌などで紹介されることも少ないようだ。誘われて、ようやくご縁がおとずれた。
三鷹の駅前からバスで15分あまり。寺のおおい住宅地を抜け、ICUの正門を通って終点で降りる。都内とは思えぬ、木立のおおいゆったりとした構内だ。学生さんが自転車で走ってゆく。校舎も窓や入り口に工夫のある近代風で美しい。 ツツジの植え込みの奥にある赤い建物が、湯浅八郎記念館だ。当大学初代総長である故・湯浅八郎博士は、18歳で渡米、果樹園で働いたのち、昆虫学を修め、同志社大学学長をも務めたという人物。信仰のかたわら、柳宗悦らの民芸運動に啓発され、みずから収集した各地の民芸品を公開すべく‘82年につくられたのが、この記念館だ。
館内は、民芸や歴史に関する企画、常設展示のほか、ICU構内から出土した先土器時代から縄文時代にかけての考古遺物、その他の美術品、歴史資料に分かれている。天井がたかく、ガラス張りの窓から石灯籠のある庭がみえる。1階の歴史資料のコーナーには、ちいさな仏像などに混じって、500客ちかいそば猪口が、壁一面にならんで壮観だ。藍一色で描かれた文様の移りかわりが見えてくる。
おなじく1階の常設展には、赤茶色の水屋箪笥や車、船箪笥、ずらりと並んだ自在掛。湯浅博士の収集品は、細かい日用品が多く、こうした大きな資料は、開館後、すこしずつ増やしているというお話だが、いずれもたいへん立派なものだ。 壁には刺し子の袋や額にはいった丹波布。大工や石工が線を引くのに使う、セロテープ台に似た墨壷は、職人自前のケヤキ製。魚や獅子の形がおもしろい。徳利を小さくしたような整髪用の油壷は、色どりも鮮やかだ。ロウソクをのせる手燭には、造形の妙がある。あまり見られぬものばかりだが、それぞれ数十個すつ、選りすぐりが集めてある。ちょっと背筋がのびてくる。
2階がいよいよ企画展「日本の文様7 幾何・器物」。 幾何といえば、縞、格子にはじまって、井桁、枡、三角がならぶ鱗に菱形、麻の葉や亀甲、源氏香など。 いっぽう器物は、茶道具など食器にかぎらず、蓑(みの)、笠、羽衣など身につけるもの、鼓や太鼓などの楽器、軍配や兜など武具や玩具、糸巻き、鳥追いの鳴子までと幅ひろい。身近な道具をさまざまに図案化する器量には脱帽だ。 夜着にひろがる熨斗(のし)文は、鮑の肉をうすくのして乾燥した「いくらでも延びる」縁起ものであるなど、文様の由来も勉強になる。衣類や食器を中心に、型紙、鏡に刀の鍔など、4、5種類ずつの文様に沿ってあつめられた、日用品や祝いの品が171点。 道具ごとに並べた展示はめずらしくないが、ちいさな盃台からたっぷりした夜具地まで、文様を切り口とした多品目の収集は、豊富な資料とスタッフの力があってこそ。後でうかがうと、膨大な収集品はまだコンピュータに登録しきれず、すべて学芸員の記憶に頼って準備されたというから驚きだ。
まずはお馴染みの縞文から。いちばん単純な文様だが、肩身ずつ微妙にちがう生地をはぎ合わせた芭蕉布の着物など、一筋縄ではいかぬ品がひかえている。紺の麻の葉文の刺子前掛は、白と紫に染めわかれた紐が絶妙にマッチ。水玉文の半纏は大の男にはご愛嬌だし、巨大な青海波文の印半纏は、なかなか着こなせない派手っぷりだ。 兜や独楽文の子どもの着物や、碇(いかり)文のむつき(おしめ)からは、親心が伝わってくる。ちいさなものでは、宝袋文の菓子木型や、巴に鋸葉文の水滴、隠蓑文の白粉入れなど。
型紙や型紙布の種類はさすがに多い。宝尽し文の蒔絵重箱など、ため息のでる逸品も少なくない。おしまいには粋もきわまり、トランプ文様の長襦袢や、隠笠文の馬の腹掛け、飛行機文の絣など。圧巻は、足つきの将棋盤に見立てた塗りの桜文変わり弁当。桝目の蓋つき重箱には駒までそろい、花見をしながら一局というニクい趣向だ。
一部の地名や年代が不詳なのが残念だが、ひとつのこらず状態のよい資料の珍しさ、幅のひろさは、民芸、デザイン、道具好きにはたまらない。大充実の展示だが、出しきれなかった資料もあるそうだ。年3回の企画展にともない、専門家による無料の講演会も催されている。これまでの企画展の洒脱なポスターもはげしく興味をそそり、見逃したのが人生のおおきな損失と悔やまれる。気を取り直して表に出れば、学生さんのくつろぐ広い芝生も気持ちよく、久方ぶりの学食にも、しみじみと満たされる穴場であった。
*今回ご紹介した「日本の文様7 幾何・器物」展は11/22まで。
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| ◆緑のなかの湯浅記念館 |
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| ◆手燭の造形美 |
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| ◆いろいろな型紙(枡文ほか) |
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| ◆入魂の刺し子前掛け |
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| ◆熨斗文がひろがる夜具地 |
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| ◆トランプ文様の長襦袢 |
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| ◆将棋も指せる変わり弁当 |
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