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武蔵野あるいて建築めぐり  江戸東京たてもの園
 武蔵野のおもかげ残す公園の一画に、江戸から昭和初期にかけてのキワモノ住宅が勢ぞろい――江戸東京たてもの園は、訪ねるたびに新鮮でたのしいが、とりわけ桜の季節がおすすめだ。77ヘクタールという、都内でも随一のひろさを誇る小金井公園は、寛永のころより、江戸から泊りがけで出かけるほどの花見の名所。中央線三鷹方面より公園へと玉川上水沿いにのびる五日市街道の桜並木は、さながら桜のトンネルだ。自然を生かした公園内では、3月のカンザクラから、5月に咲くヒザクラまで、7種の花が順ぐりにたのしめる。東西が1キロを超える公園の北西を占めるたてもの園入り口のシダレザクラは、今年もみごとな花を咲かせた。

 たてもの園は、江戸東京博物館の分館として、93年につくられた。多摩地方の農家から、山の手の邸宅、下町の商家まで、現地で保存できない歴史的な建物27棟を、東西約500メートルの細長い敷地に運びこんで配置。ひろい敷地に、それぞれが庭や生垣、門柱ごとそっくり移されているせいか、あまり違和感はない。むしろ樹齢百年をこえる大木やさまざまな草木が、茅葺や洋館を引き立て、個々の建物だけでなく、村や町の景観まで味わえるぜいたくな空間だ。また園の前身である旧武蔵野郷土館がおさめていた庚申塚や灯籠がならぶ「武蔵野の道」の北には雑木林がひろがり、いっそうの風情をそえている。とくに春先には、いろいろな花や若芽をつける木々を見てまわるだけでも、都心からあそびにくる価値はある。

 とはいえ、たてもの館のみどころは、やはり一軒ずつ靴をぬいで見物するヒトサマのお宅のなかだ。いずれも実際に使われた住宅なので、造りだけでなく生活感も伝わってくるのがいい。まずは西側の農家から。農家とはいえここにあるのは、名主役など格の高い家ばかり。木立のむこうに茅葺が映える。おなじ茅葺でもさまざまな形や角度、三角にあいた破風(はふ)があり、いずれも甲乙つけがたい。茅葺の防虫と生活風景の再現を兼ねて、竈や囲炉裏ではボランティアの手で火が焚かれている。赤々と燃える竈の火はおもわず手をかざしたくなる暖かさ。囲炉裏端でゆっくりお茶をいただきながら、昔のくらしぶりなどたずねるのもいい。鉄瓶で沸かしたお茶は、やわらかで旨い。ひろい土間からあがる畳敷きの通し部屋は、飾りもすくなく質素だが、太い柱や奥の間の書院に格式がかんじられる。障子戸の外側をかこむ縁側が気持ちいい。木と藁からなる日本の家になごむ。

 西麻布から移された三井八郎右衛門邸は、豪華なことでは筆頭にあがる。3階の土蔵を兼ねたお屋敷は、ひろい厨房と食堂をそなえ、庭に面したいくつもの客間は、日本家屋ながら凝りに凝った洋間と調度、椅子なども革張り布張りとさまざまでおもしろい。もちろんちいさな茶室も配し、華やかな社交ぶりがうかがえる。また壁紙につかわれた家紋の桐もようの唐紙、引き戸の金具など、細かいところまでデザインされて憎い。庭は枯山水。

 つづく山の手洋館ゾーンは外観も家のなかもぐっと明るい。田園調布の大川邸(大正14)は、クリーム色の板壁に、白いテラスがハイカラだ。全て洋間というのは当時めずらしく、白い壁に作りつけの棚に工夫がある。台所の木製の流しは美しいだけでなく、主婦らしい女性も「あら、とっても使いやすそう」とほめる機能を兼ねている。
 文京区の小出邸(大正14)は、窓や障子の桟のデザインがいい。庭と廊下を隔てるガラス窓は、太さの異なる桟が格子をつくり、サッシにはないあたたかみがある。「もったりしたガラスがいいよねぇ」という声にも同感だ。1,2階ともめいっぱいにとった窓が、縁側に似た開放感をつくる。明るい廊下と和室を仕切る障子は、1階のみ雪見障子で、庭の景色を部屋からもたのしむという趣向。足踏みミシンなど、懐かしい道具を見つけては「おばあちゃんちにあった!」と喜ぶ親子連れ。たてもの園の屋内では、いったいに子より親が元気だ。「こういうの、昔つかったんだよ」といばって教える姿がほほえましい。それだけ使われなくなったモノが多いのはさびしいが。

 おしゃれな洋館のなかでも異彩を放つのが、東京文化会館や横浜音楽堂で知られる建築家の前川國男邸(昭和17)。切妻屋根のなかは、中二階をそなえた吹き抜けの居間や、白いタイルばりの台所、書類用の引き出しを壁一面に作りつけた書斎と寝室がまとまり、いかにも近代建築家らしく大胆かつモダン。設計を学ぶ学生にも人気があるそうだ。

   今回の洋館めぐりでは、戸や家具に使われた木目のうつくしさと、部屋ごとの細やかな採光の工夫がとくに印象ぶかかった。洗面所の扉の一枚板や、湯船は狭くとも窓のおおきな明るい風呂場は、とてもぜいたくに見える。板橋の常盤台写真場(昭和12)は、商売柄か、ひときわ窓が凝っている。主人の部屋には、床ぎりぎりの足許にはめこまれた低いガラスが珍しい。床のなかから朝日を感じるためだろうか。また部屋ごとにいろんな火鉢が置かれ、4畳半にもしつらえた床の間には美意識がうかがえる。

 園の中央に構えるのは、2階建ての日本家屋、高橋是清邸(明治35)。家にも威厳と品格がある。一階の大広間は、庭がたのしめる休憩所。2・26事件の舞台で食べるあんみつの味はいかに。
 神田からそっくり吊るして運ばれた、ちいさなレンガづくりの交番を越えると、いよいよ東の下町区。正面をユニークな銅版でかざった看板建築の商店が、商品もろとも復元され、往時の活気をかもしだす。まず目をひくのが上野の化粧品屋、村上精華堂(昭和3)。ギリシャ風のコリント式柱と松の文様、3階建ての瓦屋根だが、みごとにまとまっている。

 ほかには広い畳敷きの店先をもつ和傘問屋(大正15)、五徳や蝿帳をところ狭しとならべた昭和初期の荒物屋、壁一面がストック用の箱で天井まで埋まった文房具屋の目玉商品は筆に墨。「小学校じゃ、まだお習字おしえるのかしら」と案ずるのは老婦人グループ。ちなみに園内はすべてバリアフリーなので、車椅子のお年寄もお仲間でたのしんでいる。
 生花店の2階には、梅や桜を打ち出した銅版がはめこまれるなど、どの店も看板建築の名に恥じぬ個性的な顔をもつ。この花屋では、蝶も舞いこむというみごとな造花があざやかだ。隅には排水用の溝があり、また白タイルと、花を活けた竹の桶のインテリアがじつにいい。

 下町中通りの奥には、調味料の瓶や缶詰を木製のまるいカウンターに並べた醤油店。量り売り用の樽に、またお母さんやおばあちゃんの解説がつく。つきあたりには、りっぱな唐破風(からはふ)を構えた子宝湯(昭和4)。たかい天井でひろびろと明るく、脱衣所からは日本庭園がみえる。ペンキ絵はもちろん富士の山。両となりは仕立て屋と居酒屋。安政3年に建てられたせまい店には、くの字のカウンターに、燗徳利や、串にさした鰻がこまごまと並べられ、酒呑みの心をそそる。壁際にならんだ酒瓶や、樽に革張りの腰掛など、近所にあったら毎晩いきたい風情たっぷり。

 たてもの同様、園では見上げる老木から、さりげなく植えられた花畑、家の前庭をふくめ、季節の草木がよく手入れされている。専門家と、200人にのぼるボランティアの世話という。下町の商店は、奥や2階に住居を兼ねており、裏にまわった勝手口のあたりは、下町ならではの植木類が、丹精こめて育ててある。苗も鉢もなかなか立派で、春の七草まであるのはかえって本物らしさを削ぐくらい。しかしこうして、身辺をさっぱりと、きれいにまめに暮らすのが、日本家屋の身上だ。せめて植木に手塩をかける生活の余裕は見習いたい。住みたい家、通いたい店が満載のたてもの園で、わが家、わが町をふりかえるのも一興。いい居酒屋もさがさねば。

◆小金井公園の桜
◆垣根のむこうに映える茅葺
◆すっきりした農家のつづき間
◆三井邸 引き戸の金具
◆大川邸のハイカラな木製流し。冷蔵庫も木製
◆小出邸にみる窓のデザイン
◆前川邸のインテリアはミッドセンチュリースタイル
◆2・26事件の舞台にもなった高橋是清邸
◆下町通りの看板建築
◆松とコリント 村上精華堂
◆子宝湯の唐破風
◆1970年代まで使われていた居酒屋カウンター

アクセスJR中央線武蔵小金井または西武新宿線花小金井駅よりバス5分
江戸東京たてもの園(東京都立小金井公園内)
東京都小金井市桜町3-7-1
開園時間: 9:30〜17:30(4〜9月)  9:30〜16:30( 10〜3月)
入場料: 一般 400円
TEL: 042-388-3300  
URL: http://www4.ocn.ne.jp/~tatemono/


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