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会津ローカル線の旅
 夏はのんびり鈍行列車にゆられたい。のっぺり平らな町をはなれて、山や川が見たくなる。時刻表と地図をにらんで、今年は福島、会津を通る2本の路線に的を絞った。

 郡山と新潟をむすぶ磐越西線(ばんえつさいせん)は、川幅日本一を誇る阿賀野川のゆたかな眺めが見どころだ。郡山を昼すぎに発つ快速あいづ5号は、3両のまっ赤な車両。深緑のボックスシートは遠出らしき客で埋まるが、地元のひとが一駅ごとに降りていく。釣道具を抱えた中学生は、猪苗代湖へ行くらしい。湖をすぎ、かの磐梯山(ばんだいさん)を背にした磐梯の駅舎は木造だ。土日に走る人気のSL列車にあわせ、各駅ホームのベンチや灯りもレトロに統一されている。

 会津盆地では、みどりの稲穂が風に吹かれて濃淡に波をうつ。郡山から65キロを1時間、乗り換えの会津若松で、ちょっと町に降りてみる。駅のレンタサイクルで、ふるい町並をひとめぐり。大町通りから七日町通りは、蔵や町屋、ギリシャ風の窓や柱の洋館をうまく使った店がならび、建物園の趣だ。なかでもりっぱな漆器店や、蒲生氏ゆかりの寺などは、いずれゆっくり訪ねよう。

 会津若松から新潟まで、約130キロで3時間。電線のない非電化列車は、ガタゴトと背にひびく揺れも心地よい。喜多方の次、山都(やまと)でも、2階建ての民家にまじって白い蔵が目にはいる。木立のなかをぬけて走ると、とつぜん左手にあらわれるのが、お待ちかねの阿賀野川。ここからは、蛇行する川を右に左に見ながら走る。岸ぎりぎりに樹木が茂るたっぷりとした水の流れは、船で行き来したかつての暮らしを偲ばせる。
 福島新潟県境をすぎ、トンネルをぬけた鹿瀬(かのせ)あたりは、ダムによる発電所と和紙の町。水銀公害から時を経て、のどかな水田と水辺の集落が点々とあらわれるころ、地元のお年寄がひとりふたりと乗ってくる。風呂敷包みをきちんと脇に置き、飴や煎餅をとりだして、おおきな声で元気よく話す。ガーゼのハンカチを置いた手摺に頭をのせて、ボックス席で悠々眠るおばあさんは、エビのようにシートで丸まる若者には真似のできないあっぱれな昼寝ぶり。
◆会津の商店は個性的な洋館ぞろい
◆会津農家の屋根は板葺き
◆雨にけむる阿賀野川

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 日を改めてこんどは只見線に乗る。新潟県から福島県へ、西から東に135キロ、越後山脈を抜けて走る、4時間余ののんびり列車。始発の小出駅は、おむすび型の山に囲まれ、背に魚野川がゆったり流れる、米どころ魚沼の静かな駅だ。

 やはり非電化の只見線は、冷房がわりの扇風機がフル回転。2両の車両の1両目には、2人掛のボックスシート。只見川沿いに走る窓から、青い田んぼや手の届きそうな野菜畑がすぎていく。畦道にふるい石碑が見える。サルビアのあかい花。山肌の緑がうすいところはスキー場だ。右手には越後三山が連なり、切り立った渓谷をはるか見下ろせば、澄きとおった流れが見える。全開の窓から吹き込む風は心地いいが、トンネルにはいったとたん、轟音とともに冷気がはいりこむ。5分ほどもつづく六十里越トンネルを抜けると、海かと見まごう只見湖がひらけ、ふたたび長い田子倉トンネルで体がすっかり冷えきったころ、乗りかえの只見駅へ到着だ。

 山中にぽつんとたたずむ只見駅では、売店がわりに、おばさん二人が山菜やゆべしを直販している。裏の神社で湧く清水がうまい。「水と空と心の町 只見」など、派手な幟がホームにはためく。磐越西線がSLなら、こちらは季節限定トロッコ列車が、鉄道好きを呼びよせる。山並にひろがる青空に、あかるいグリーンが映える2両の車体は、ベンチ風の4人掛けボックスシート、カンテラの灯りなど、山小屋ふうの凝ったデザイン。ストーブもあるが、夏は窓ガラスが取り払われて、吹きこむ風が醍醐味だ。卓に固定された飲み物立ては、揺れよりも強い風用なのが、走り出してすぐにわかった。

 川幅もひろがり、ゆるく蛇行する只見川のむこうに、山や集落が現れる。ほそく伸びる支流にかかる赤い橋。田んぼの合い間に果樹らしい木もみえる。農家はほとんど焼板の壁に、雪国ゆえのトタンだろうか、赤、青、緑、銀色の屋根は、切妻、寄棟など形もさまざま、立派な造りで、青い田んぼによく映える。駅はいずれも鄙びているが、「いで湯とスポーツの町 柳沢」など、町の謳い文句を高々と掲げた派手な幟が駅舎を覆い、歓迎ムードがいっぱいだ。自然ゆたかな沿線には、温泉やキャンプ場も多く、途中で乗り降りする家族連れもたのしげだ。曜日限定、全席指定のトロッコ列車は、大きな時刻表を抱えた鉄道好きから、若いカップル、ビール片手の身軽な中年男性など、写真を撮ったり居眠りしたり、風に吹かれて3時間、思いおもいに楽しめる。ふとヴェネツィアちかくの川下りを思い出す。お城みたいな洋館めぐりもよかったが、稲穂と屋根の色の妙など、日本の岸辺も負けてはいない。

 会津坂下(ばんけ)で川から離れ、眺めもだんだん平板になり、ながい旅程も終盤だ。見知らぬひとと相席するのも、長距離電車のいいところ。向かいに掛けたおばあさんは、まず顔をあわせて「よろしくお願いします」と頭をさげ、四方山話のおわりには「お世話になりました」と席を立った。会津ののどかな景色とともに、ボックス席の嗜みも、しっかり記憶にとどめよう。





◆田んぼのなかの絶景プール
◆スキー場のみえる山肌
◆只見駅でトロッコ列車(緑の車両)に乗換える
◆川風を浴びるトロッコ列車
◆下流もしずかな只見川


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