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相模湾海底散歩  新江ノ島水族館
 藤沢駅から10分あまり、龍宮城みたいな片瀬江の島駅を降りると、弁天橋のむこうに江の島がぼうとかすんで見える。駅前の釣具屋にはビーチサンダルや麦わら帽子。のんびりムードの海辺に異彩を放つ近代的な建物が、新江ノ島水族館だ。この春の再開いらい、たいへんな人気だという。

 旧館の開設は、昭和29年にさかのぼる。日活社長の堀久作氏が湘南海岸をドライブ中、その景勝に惚れこんだのがきっかけだ。日本の近代水族館の草分けとされる1号館は、小さな窓が整然とならぶ汽車窓式の置き水槽でスタート、大型のヒゲクジラ生飼に挑んだ2号館が昭和34年、アザラシ、アシカを加えて海の動物園を目指した3号館は39年、そして開館50周年を機に生まれ変わった新館は、進んだ技術と斬新なレイアウトによる新らしい娯楽施設だ。

 元来ご当地江ノ島は、相模湾のゆたかな生物層で名を馳せた。大森貝塚で知られる海洋学者モースが、明治10年に研究小屋を建てている。「相模湾と太平洋」をテーマとした新館の展示は、「相模の海ゾーン」「深海コーナー」「クラゲファンタジーホール」「冷たい海、暖かい海ゾーン」などに分かれ、それぞれに海のドラマが堪能できる。

 のっけから度肝を抜くのが、岩場からザザーと吹きあげる波飛沫も荒い相模湾大水槽。水深6.5メートル、床面積144平方メートルという1、2階吹き抜けの大水槽では、整然と三角形を保って泳ぐマイワシ8000匹の大群やアジの群が、サメに追われて一瞬のうちに散る。サメはじっさい襲った小魚を食べるので、イワシ不足の昨今は補充もままならぬとか。当館目玉のシノノメサメやサカタサメは、全長2メートルの巨体をゆったりと泳がせる。岩にはおおきなホシエイが張りつき、横縞のカゴカキダイがすり抜けてゆく。水槽脇の解説で、見たこともない魚の名を確かめながら、大小さまざまな生き物の棲息ぶりを眺めるのは飽かず楽しい。ウエットスーツの飼育係が、マイクで説明しながらエビなどの餌を与える時間はさらに賑わう。

 壁際の水槽には、オレンジや黄色も鮮やかな逗子海岸の珊瑚や、ニョロリとうねるウツボ、海に落ちたブローチのようなヒトデ、七色のエラモなど、未知の世界はかくも美しく面白い。マダイ、クロダイ、メバルなど、お膳にあがる魚も勢ぞろい、岩にへばりついてグネグネと呼吸するタコの姿は子どもにも大人気。紫のヒゲをゆらす紫花巾着、体長3メートルを超えるタカアシガニの小競り合いは、SF映画の趣だ。

 生物のみならず、江ノ島南の実海を模した起伏ある海底や擬岩も見ごたえがある。鹿威(ししおど)し構造による造波装置が海藻を揺らす。採集がはばかられるアマモ(藻葉)は種から育てるなど活きた海底環境つくりに努め、海藻には卵も産みつけられている。

 つづく深海コーナーでは、物々しい装備の深海高圧環境水槽と海洋研究開発機構との共同研究による最新の装置のなかで、より珍しい生物たちが息づいている。朱色のエビスタイ、ソフトクリーム型の巻貝を背負うテラマチオキナエビス、白い毛におおわれたヒダベリイソギンチャクなど。

 お待ちかねクラゲファンタジーホールはさながら幻想の館。毒をもつ桃色や緑の触手が妖しく揺れる。クラゲの飼育で名高い当館ならではの充実だ。裏方には、流水に吸い込まれるクラゲ専用の特別な平たい水槽が、ぎっしりと並んでいる。

 冷たい海、暖かい海ゾーンでは、寒流「親潮」と暖流「黒潮」がぶつかる豊かな日本の海の姿。黒潮の海では、美しいクマノミやフサギンポ、クロソイ、砂から飛び出すチンアナゴやニシキアナゴのひょうきんな顔。青く光るルリスズメダイや赤いスミレナガハナダイの泳ぐサンゴ礁水槽では、その鮮やかさにため息がもれる。そのほか、昭和天皇ほか皇族の海洋研究や、ペンギン、オットセイゾーンなど盛りだくさん、ミナゾウアザラシみなぞうも人気の的だ。

 娯楽と教育をテーマとする当館には、ドチザメなどに触れられるタッチングプールや、砂浜や漂着物、防風林の模型で学べる「なぎさの体験学習館」など子供向けの教育施設にも力を入れている。新館の再出発は、オリックスなど複数の民間企業が所有、運営というPFI事業としても注目を集める。水族館の敷地は神奈川県の提供で、この学習館も県による運営だ。創設者、堀氏の義理の娘にあたる堀由紀子氏の新しい経営手腕は、岐阜や旭川など全国の水族館からも引っ張りだこだ。経営感覚を重視する人遣いもユニークで、グッズの販売には学芸員、営業担当が使う車の運転には16人の飼育スタッフが当たる。多彩なアーティストによるパッケージがたのしいオリジナルグッズや、海洋堂製の模型も売れている。

 じっくり眺めてたっぷり遊べる水族館。ひと息つくには、シラスのピザなどが食べられる1階のカフェや、富士山や江ノ島を望む2階のテラスで巻貝サンドをつまむのもいい。片瀬海岸を背に眺めるバンドウイルカのスピード感あふれるショーは、子どももおとなも大満足だ。

 元気があれば、江の島へ渡って弁天様の祀られた江島神社へ登るのもよし。「知らざあ言って聞かせやしょう」の弁天小僧ゆかりの境内には、歌舞伎役者の手形もある。明治の英国人貿易商の手による植物園、サムエル・コッキング苑も、展望灯台の建て替えを機に昨年の春リニューアル。南国風の植物や、ポンペイを小型にしたような温室の遺構も掘り起こされた。海抜112メートルの展望灯台からは、富士山から伊豆半島まで一望できるし、苑内には眺めのよいカフェもある。昔ながらの参道をひやかしながら、貝のかたちの最中を買ったり、サザエやイカ焼で一杯やるのもいいだろう。潮の香りがすっかり身に染む江の島の一日だ。
◆地上2階、地下1階。設計は安田幸一・東工大助教授と日建設計
◆相模湾大水槽でエイがただよう
◆ゆっくり立ち回るタカアシガニ
◆「食べられる魚」コーナーのタコ
◆逗子海岸のサンゴ
◆蛍光ミドリのヒゲがきれいな紫花巾着
◆世界最大のクラゲ、パシフィックシーネットル
◆サンゴに青いルリスズメダイ
◆砂穴から飛び出すアナゴ
◆江の島を背にイルカが跳ねる


アクセス 小田急江ノ島線 片瀬江ノ島から徒歩3分
江ノ島電鉄 江ノ島駅から徒歩10分
湘南モノレール 湘南江の島駅から徒歩3分
神奈川県藤沢市片瀬海岸2-19-1 TEL:0466-29-9960
http://www.enosui.com/
新江ノ島水族館


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