日本の文様を知ろう!
*このコンテンツは、子供向けイベントのために作成したパンフより転載・加筆したものです。
私たちの身のまわりにある、たくさんの文様。
最近は特に、アニメの影響でこのような柄を目にする機会が多いですね。
これらは古くからある、日本の伝統文様です。
日本の文様の多くは、植物や自然を単純化し、連続する柄としてデザインされています。
それは、着物や手ぬぐい、家具、襖(ふすま)など生活の道具に使うため。
多くの文様が生み出され、暮らしに彩りを与えてきました。
しかし、文様はただの美しい「飾り」や「彩り」ではありません。
文様には、さまざまな「意味」があることを知っていますか?
その昔、科学の発達していなかった時代、人々は病気や天災、ききんなどのわざわいは悪霊(鬼)のしわざと考えていました。
悪霊を遠ざけ、健康に暮らすために、まじないや神様仏様の力を必要としたのです。
たとえば、節分に豆をまいたり、「下の歯が抜けたら上に向かって歯を投げる」などは、現在でも残っているならわしの一例です。
そして、昔の人々は、文様にも「祈り」や「願い」を込めました。身の回りの品を文様で飾ることで、幸せが訪れるように、悪いことが起きないように、縁起をかついだのです。
それは、より良く生きるための先人たちの知恵だったと言えるでしょう。
科学が進歩した現代でも、人々が健康や幸福を願う気持ちは同じです。
文様の意味や由来を知れば、身近なデザインがより楽しく、より頼もしく感じられることでしょう。
自分のお気に入りを見つけるのもいいですね。
では、それぞれにどんな意味があるのか、見ていきましょう。
麻の葉(あさのは)
正六角形を基本とした幾何学文様。
「麻の葉」に似ていることから、成長が早く、まっすぐ伸びる麻にあやかって「子供がすくすくと健やかに成長しますように」との願いがこめられています。
青海波(せいがいは)
半円形を重ね、波のように反復させた文様です。
どこまでも穏やかに広がる海のように、「幸せな生活や平和がいつまでも続いてほしい」という祈りが込められています。
鱗(うろこ)
この三角形は魚ではなく、蛇の鱗をあらわしています。
日本では死者の霊は蛇の姿で現れると信じられていました。死者を悪霊から守る鱗は強い力を持つとされ、それが魔除けの意味になりました。
亡くなった方に三角の白い布を頭につけるのも同じ意味だそうです。
矢絣(やがすり)
矢羽根を図案化した絣を「矢絣」といい、その文様も同様に「矢絣」と呼ばれるようになりました。
破魔矢(はまや)を連想させることから魔除けの意味があり、また、矢は真っすぐ飛んで戻ってこないことから、卒業式などの「門出」にふさわしいとされています。
唐草(からくさ)
起源は、古代ギリシアの「パルメット」という植物文様です。それがシルクロードを経て、日本には仏教と共に伝わりました。
四方八方に伸びる蔓草は、「繁栄」「成長」「長寿」の象徴です。
七宝(しっぽう)
円が四分の一ずつ重なって連なる幾何学文様です。
円がひろがり続けることから、「円満」「調和」「ご縁が続く」といった縁起のいい意味があります。
七宝とは、仏教の教典に出てくる七種の宝「金、銀、るり、めのう、さんご、水晶、真珠」であると言われています。
紗綾形(さやがた)
ヒンドゥー教や仏教で吉祥の印とされる「卍(まんじ)」を斜めに崩して連続させた文様です。
着物の地紋や陶磁器などに使用されることが多く、
「途絶えることのない幸福」を意味する、とてもおめでたい文様です。
亀甲(きっこう)
正六角形が上下左右につながってできた文様で、亀の甲羅に似ていることから、この名で呼ばれます。
「亀は万年」と言われるように、「長寿」への願いが込められています。亀甲の中に花を配したり、亀甲を三つつなげた毘沙門(びしゃもん)亀甲などもあります。
立涌(たてわく)
この向かい合う曲線は水蒸気が昇っていくさまを図案化したものです。
平安時代の貴族の服装や生活用品に使われた有職文様(ゆうそくもんよう)のひとつで、運気や家運の上昇を意味します。
瓢箪(ひょうたん)
種の多いひょうたんは「子孫繁栄」のシンボルです。
また、三つ揃うと三拍(瓢)子揃って縁起がよい、六つ揃うと「無病(六瓢)息災」となり、縁起の良い語呂で好まれました。蔓が絡みつくことから「商売繁盛」の意味もありました。
梅(うめ)
中国では松、竹とともに「歳寒三友(さいかんさんゆう)」といい、厳しい寒さの中でも耐え忍ぶ、志の高さを象徴しています。
また、春の訪れを知らせる、めでたい文様として、工芸品や着物などに好んで使われ、たくさんの図案があります。
菊(きく)
菊は奈良時代に「薬用」として中国から伝わりました。重陽の節句(9月9日)に菊をめで、菊酒を飲む習慣もこの名残なのだそうです。菊は「長寿」のシンボルです。
皇室の紋章や日本のパスポートにも菊紋があしらわれており、日本を代表する花です。多種多様な図案があります。
犬張子(いぬはりこ)
犬張子は、犬の形をした紙製の置物です。
出産が命がけであった時代、お産が軽い犬にあやかろうと「安産祈願」のお守りとして飾られました。
また子供の魔除けとして、成長を見守る存在でもあります。
蜻蛉(とんぼ)
前にしか飛ばず、後ろにひかないトンボは、勝虫(かちむし)と呼ばれ、勇猛さのシンボルでした。
トンボ柄は、特に武士の間で好まれ、武具の装飾に使われました。「勝利」「武運」を祈る文様です。
ここでご紹介した文様はごくごく一部です。
すべての文様に意味があるわけではありませんが、文様の意味を知ることで、日本の工芸品や建築物にふれたときに、それを作った人の意図や思いに気づくこともあるでしょう。
このページが文様に興味を持つ入口になれば嬉しいです。
*このページは転載自由です。
【参考文献】
◯日本の文様解剖図鑑 筧菜奈子著(株式会社エクスナレッジ)
◯日本の文様〜江戸千代紙文様 小林一夫著(日本ヴォーグ社)
◯雲母唐長 文様レターブック トトアキヒコ・千田愛子著(青玄舎)
◯縁起のいい樹と日本人 有岡利幸著(八坂書房)
◯魔除けの民俗学 常光徹著(角川新書)
◯Wikipedia